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宇都宮地方裁判所 昭和27年(ワ)26号 判決 1952年12月27日

原告 千本寿

被告 芳賀通運株式会社

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は請求の趣旨として被告が昭和二十七年一月二十八日附原告に対しなした解雇の意思表示は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、

請求の原因として被告は肩書地に於て貨物運送業を営む株式会社であり、原告は大正十二年被告の前身篠目運送会社以来引続き三十年の長きに亘り従業員であるところ昭和二十七年一月二十八日被告は原告を解雇する旨の意思表示をした。然しこれは労働基準法第二十条に違反しているから無効である。即ち右通告に当り同条所定の三十日分以上の平均賃金の支払をしていないのであるから解雇の意思表示は法律上の効果を生じない。又解雇につき正当の理由がないから無効である。労働契約は継続的債権債務関係であり、労働者はその意思に従つて職を選び最も有利な条件の下に労働力を提供してその生存を維持し、他人に妨げられることなく、かかる雇用関係を継続する権利(労働の権利)を有するのであつて、これを侵害する様な解雇は許されない。従つて解雇を正当づける相当な理由があるときに限り有効に解雇できるものと解すべきであるのに何等の正当の理由がないから効力はない。仮に解雇につき正当性を必要としないとの解釈をとるも、労働者はその職を奪われた場合非常な苦痛を蒙ることは云うまでもないから、人権を保障するため解雇権は濫用されてはならない、被告のなした解雇は如何なる理由か明瞭を欠く、是の如きは権利の濫用であるから無効である。よつてその無効確認を受けるため本訴請求に及んだと陳べ、被告の抗弁事実に対し、被告会社は、脱税方法として別途金制度を設け、収入の場合も支払の場合も金銭出入帳と別途金とを区別し、市塙営業所にては宮龍彦が別途金を記帳せず、本社に持参すると称し受取つたもので七万七千円を荷主より受領したが、宮の指示により三万二千七百円は記帳し、残額は別途金として宮が受領し同人が費消したのである。昭和二十六年四、五月頃小麦と玄米一俵が発送の結果過剰となつたが、小麦は宮が自宅へ運び玄米は営業所に保管してあつたが、その営業所へ宮が七井の自宅から引越して来たので、倉長の中山孝三郎が宮に食べられるのを畏れ、発送係である原告宅に運んだところ原告の留守中長男が預り米と知らずに搗いたので代替を造つて保管しておる、又自動車一台につき一ケ月金三千円の別途金の積立金が使途不明というが、具体的事実の主張があるに於ては原告は明確にすることができる。被告会社は極めて封建的な会社で、労働組合すら成立していないが、会社の営業方針につき何か建言或は批判すれば直に首切をするやり方である。三年前真岡営業所に於て輸送米百俵以上紛失した際、三十俵を社長、重役が勝手に処分したことあり、内三俵は宮の所へ到着している。宮は幽霊名義にて月三千二百円の金を取つており、又自動車を使用したのをそれよりも高い馬車で運んだようにして不当利得している。それ等の不正事実を原告が知つているので原告をうるさく思い、且つ、原告が宮の離婚した前妻三と婚姻したため、宮が私憤を抱き自己の不正事実を隠弊せんとして原告夫妻を告訴したので、原告は宮を真岡検察庁に告訴しているが、逆に原告に不正行為ありとするもので被告の主張は理由がないと陳べた。

(立証省略)

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、答弁として原告主張事実中被告会社が運送業を営んでいること、原告が従業員であつたが被告会社が解雇の意思を表示したこと、労働基準法所定の三十日分以上の平均賃金を支払はないことは認めるが、その他は否認する。被告会社は、昭和十八年六月一日設立したので訴外篠目運送店を合併したものでない。従つて、被告会社は原告を新に雇入れたもので原告は三十年も被告会社に勤務したものでない。被告会社が原告を解雇したのは原告に不正行為があつたからである。即ち原告は被告会社の市塙営業所に勤務中昭和二十五年初め頃、市羽中学校及び同校道路等で石炭殼及び砂利を運搬し、市羽村より二回に亘り金七万七千円を被告会社のため受取つておるのに、恰も市羽村役場より金三万二千七百余円を受取つたように装つて、その差額金四万四千三百円を横領し、又政府委託搗精米一俵を業務上保管中横領しながら、市塙営業所長宮龍彦より貰つたと強弁しおる外、被告会社が米、麦、煙草等を日本通運株式会社の下請負として集荷配達をして料金の一部を自動車購入資金の一部として積立てることになり、一台一ケ月に付金三千円宛預金することに定りおり、原告は市塙営業所の金銭の出入を取扱つておつたのに計算不明のままにして全部を営業所長宮龍彦に交付してない。昭和二十六年六月原告は右営業所より本社勤務を命ぜられたのに引継に際し、金銭出納帳を交付したのみでその余の諸帳簿及び諸証憑書類を故意に引渡さないのであつて、右横領については茂木警察署の取調を受け、嫌疑十分なりとして送検されたのである。かくて被告会社に損失を及ぼし信用を失させたので、解雇するにつき正当の事由があるので原告の本訴請求は失当であると陳べた。

(立証省略)

理由

被告会社が運送業を営んでおり、原告がその従業員であつたが、被告会社が解雇の意思を表示したこと、労働基準法所定の三十日分以上の平均賃金を支払はなかつたことは、当事者間に争がないよつて解雇が無効であるかを按ずるに、労働基準法第二十条によれば使用者が労働者を予告なしに解雇するについては止むを得ない事由のため事業の継続が不可能となつた場合、又は労働者の責に帰すべき事由に基く場合であることが必要である。然るに成立に争のない乙第三、四号証と証人久保庭太三郎、菱沼四郎、中山孝三郎の証言と被告会社代表者野村多の当事者尋問の結果とを綜合すれば、原告は被告会社の市塙営業所に次長として勤務中所長である宮龍彦が昭和十九年応召出征し、同二十一年十一月帰還する迄所長代理として事務を掌つていたが、帰還後も宮が健康上及び家庭上の事由にて出勤の意の如くならないのを奇貨とし、金庫の鍵を宮に渡さないで自ら所持して所長の実権を行使し、肥料及び米の受払帳、自動車作業簿等を備付けないで、昭和二十六年六月一日本社へ転勤を命ぜられたが、右の帳簿がなかつたため従前の経理関係を明かにすることができなかつたこと、なお、宮出征中同人の妻三と懇意となり、関係ありとの噂を立てられために宮と離婚した右三と結婚し、本社へ転勤後宮の告訴に基き捜査を開始した茂木警察署より横領の嫌疑ありとして、書類送検されたことを認めることができる。右認定に反する証人千本三、遠井磯次郎の証言及び原告の当事者尋問の結果は措信することができない。前認定の事実を綜合すれば、被告会社が原告を解雇したのは原告の責に帰すべき事由に基いたものと言うことができる。従つて、右解雇は正当な事由に基かないとか、権利の濫用であるとの原告の主張は採用できない。なお、原告は宮その他会社役員に不正行為あり、原告がこれを知つているので逆に原告に不正行為ありとして解雇したのだと主張するが、宮その他役員の不正行為についてはこれを認めるに足る立証がないので、右原告の主張も採用できないよつて原告の本訴請求を理由はないものとして排斥し、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のように判決する。

(裁判官 真田禎一)

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